亡くなる4年くらい前のことです。
母が玄関先で転倒し、ひざの骨にひびが入り入院することになりました。
それまでは自分の足でどこへでも歩いて行き、日常生活に全く問題はありませんでした。
手術は不要でしたが、足をつくことはできず病院暮らしが始まることになったのです。
リハビリをしようにも負傷した右側に必要以上に負荷をかけすぎてしまうため、リハビリも中断気味で時間ばかりが過ぎていきます。
(高齢のため、先生の指示どおり少しずつ負荷をかけていくということができなかったのです。)
そんな母を見舞いにいった時に、すごい光景を見てしまいました。
母親にドリルをやらせる中年の息子
病棟には家族と一緒に食事をしたりおしゃべりをするデイルーム(共用スペース)があります。
そこで私くらいの年の息子さんが入院している母親に一生懸命算数ドリルをやらせていたのです!
《あ~。認知症予防にやっているんだな。》
しかし、当のお母さんは明らかにいやがっています。
けれど、必死の形相の息子さんは手をゆるめません。
《わかる、わかる。》
《高齢者の入院は認知症が進むということを、いまやだれもが知っていますからね。》
「いやがる小学生の横について、無理やり勉強をさせている親」の姿が、その40年後に立場がひっくり返ったような光景です。
その後、私も心配で大人のぬり絵やらなんやら差し入れてみましたが、当の本人は本当に興味を示さないんですよね。
時間と共に無気力というかぼんやりしていく母に、なすすべもなく、あせりと無力さを感じていました。
メルカリのすすめ
ベッドの上で何もしないでいることにあっという間に慣れてしまった母。
どうやったら何かやろうとしてくれるのか。
楽しくて、知らず知らずのうちに頭が回り始め、思わすベッドから上体を起こし、ついでに歩いてみようと思わせてくれる何か。
私がメルカリを始めたのは母が亡くなった後ですが、今にして思うと、あの時、ぬり絵の他にも「一緒にメルカリで不要品を売ってみない?」と言って巻きこむことができていれば違っていたかもしれないと思うのです。
もちろん、多くの高齢者の方が一人でメルカリを始めることは難しいでしょうし、スマホでは小さくて文字も画像も見えませんから、子ども世代の伴走が必要です。
最初に出品する5つ
母と一緒にメルカリに出品するなら、これだったなというものを5つ選んでみました。
1 ハンドメイド
母は手先が器用で様々なものを作っていました。袋類、ビーズアクセサリー、七宝焼、編み物。
パッチワークを組み込んだポーチなど、売りに出してもはずかしない出来栄えです。
作ってもらったポーチはこのとおり今も使っています 。
《本人が作ったものがパソコンの画面で紹介され》
《いいねが5つも付き》
《一晩で閲覧が50人もあったとしたら》
気になって、日がなパソコンの画面をのぞき込むようになったかも。
2 ブリキの衣装箱
すでに全く使われておらず、中には何も入っていませんでした。
結局私が売りました。
売値2,200円
利益680円
「こんな古い物を買ってくれる人がいるんだね~。」と驚いたのではないでしょうか。
3 ジャノメミシンのいす
長年使っていたせいか足もとが安定せず、すわったり踏み台として使うこともなく、洗面所にぽつんと置かれていました。
こちらも売れました。
売値2,900円
利益1,310円
「ミシンは無いのに、イスだけで売れるなんてね~。」と一緒に喜びたかったです。
4 ぬいぐるみ
ガラス戸の一角に、見向きもされずに並べられていたぬいぐるみ。
こんな感じのうさぎのぬいぐるみがこんな値段で売れました。
売値9,300円
利益7,370円
古いぬいぐるいが1つ9,000円で売れるとなれば、押し入れの奥にも何かしまってあったかなと、記憶が急回転したかもしれません(笑)。
5 茶たく
母は煎茶を習っていたので、お茶道具をたくさん持っていました。
中には未使用の茶たく(湯呑受け)もあり、これも私が売りました。
売値2,000円
利益1,625円
もしかすると、「これはまだ使うつもりだし、10,000円もしたので売りたくない。」と言ったかもしれません。
それなら、それでいいのです。頭の中で売ろうかどうしようか、綱引きをしてくれることが重要なのですから。
隠れ資産は平均約70万円
フリマアプリの利用が増えてきているにあたり、ニッセイ基礎研修所では日本の家庭に眠るかくれ資産を、1世帯あたり約70万円と推計しています。
…このような中で、家庭に眠る不要品への注目が高まっている。自分にとっては不要品であっても、必要としている人へ上手く売ることができれば、案外、お金になるのかもしれない。…
ニッセイ基礎研究所
日本の家庭に眠る”かくれ資産”総額は推計37兆円ーフリマアプリでの平均売買価格から算出、1世帯あたり約70万円、金融・不動産に続く第三の資産ー 基礎研REPORT(冊子版)1月号|ニッセイ基礎研究所
ブランド品を買うような親でもないし、普通の実家だからと思っていても、夫婦2人が何十年と暮らしていれば、気がつかないだけで何かしらあるということですね。
骨折入院のじじばばを認知症から救出
母が骨折入院をした経験から思ったのですが、認知能力を落とさずに退院させるために、家族には次の3つのことができると思います。
1 主治医や看護師に家族が直接様子を聞く
大きな手術をしたわけでもなく、致命的な病気でもない。
そのため、家族は様子を見に行った時に、本人と話をしたり世話をするだけで帰ってきてしまいます。
しかし、高齢者の骨折入院は気がつくと月単位。
なるべく主治医や看護師の方と直接話をするように心がけ、回復状況の把握と、一刻も早い退院をのぞんでいることを伝え続けることが大切です。
2 手をつないで歩く
「筋力を落とさないように、自分でできることを工夫してね。」と本人に何度言っても、家族の願いは右から左。
でも、「手をつなごう。」という提案は却下されることがありませんでした。
転ばないように気をつけながら、病棟の廊下を3周。
そのうちには父も私を真似て、母と2人で廊下を歩くようになりました。
今さら手をつなぐなんてとは言っていられない状況になってきたと、父も覚悟を決めたのでしょう(笑)。
3 一刻も早い退院を
ただベッドの上にいる。
そんな時間が長いほど、‘’戻って‘’こられなくなるのではないでしょうか。
医療者側からの指示やアドバイスをもとに、退院後の生活も含めて、家族による早目の対応が功を奏するでしょう。
無事かえる